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神戸家庭裁判所姫路支部 昭和37年(家)430号 審判

本籍 ハワイ 住所 ハワイ

申立人 ドナルド・H・ヤスダ(仮名)

(本籍 兵庫県 住所 兵庫県)

事件本人 野本新一(仮名)

主文

本籍兵庫県姫路市下寺町○○番地筆頭者野本新一の戸籍原簿の記載全部を抹消することを許可する。

理由

申立人は主文同趣旨の審判を求め、その事情として

「事件本人は昭和三十七年一月十七日棄児として発見され、姫路市長石見元秀の作成せる調書に基き戸籍の記載がなされたものである。しかし、事実は右に反し、事件本人は昭和三十三年七月十五日アメリカ合衆国ハワイにおいて父ドナルド・H・安田と母サイ・リエン・安田との間に男児として出生したもので、既に右出生の届出はハワイでなされている。したがつて、前記日本における戸籍の記載は全部錯誤によるものであるからその訂正を求める」と申述した。

よつて検討するに、申立人ドナルド・H・安田の供述、衛生局長チャーリス・ケシー医師作成の出生証明書(衛生省ハワイ管轄、綴込番号(五)一九五八,〇九〇六四)部隊長歩兵大佐トーマス・R・ソマーズ作成の陳述書、米陸軍調査官ジョン・P・アダムス作成の野本新一の身許についてと題する書面および兵庫県播磨児童相談所作成の児童記録票(添付の野本新一の写真を含む。)を綜合すると、申立人は、米軍人として日本に駐留中である昭和二十八年八月十九日朝鮮人であつたサイ・リエン(妻)と東京で結婚したこと、その後昭和二十九年頃申立人は妻と共にハワイにもどり同女が昭和三十三年七月十五日ハワイの病院で男児ユリアス・ジョウジ・安田(事件本人野本新一)を分娩したこと、昭和三十七年初め頃妻と事件本人は京都在住の妻の姉の許に来訪し、その後申立人は昭和三十七年一月五日頃一ヵ月の休暇を貰つて右妻子の許に立寄つたのであるが、昭和三十七年一月十七日頃妻が右事件本人をともなつて姫路の知人を訪ねた際、たまたま姫路市内の東映大劇映画館で映画観覧中男児ユリアス・ジョウジ・安田(事件本人)を見失つたこと、同日頃事件本人は保護者なき棄児として児童相談所その他関係機関の協議の結果姫路市長作成の調書に基き本籍姫路市下寺町五〇番地の戸籍を編成をなしたこと、引続き同児を尻崎の園田寮に収容して現在まで養護してきたものであること、申立人及びその妻は昭和三十七年一月二十八日頃ハワイに立もどつたのであるが、その後申立人がハワイの警察署に前記事件本人の搜索願の届出をするとともに、前記京都在住の妻の姉に対しても搜索方の依頼をしていたところ、妻の弟岩村から事件本人の所在が確認された旨の電文が申立人宛にあつたので、申立人は急きよ昭和三十七年六月十七日飛行機にて右事件本人を引取るべく本邦に来たこと、昭和三十六年五月(ハワイで)及び昭和三十七年四月頃(尼崎で)撮影の写真二葉を申立人に示したところ自分の子供であるユリアス・ジョウジであることを確認したこと等の事実が認められる。これらの事実に徴すると右事件本人は申立人とその妻との間にもうけられた男児であることが明白に認められる。従つて棄児として戸籍編成したその戸籍の記載は全くの誤りであるといわねばならない。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 中川文彦)

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